理事長所信

第68代理事長川間一平

はじめに

 「もしこの街からJCが無くなったら、街は困るのか? 君は何のためにJCをやっているのか?」
 この言葉は、2017年に埼玉で行われた全国大会卒業式で代表の方から現役に向けて発せられたメッセージです。
 私は、2005年に知人から誘われて青年会議所に入会しました。それなりに楽しく、またそれなりに厳しくも、明確な目的を持たぬまま年月を重ねてしまいました。しかし、そんな中でも先輩達は私の中へ、絶えることなく体験という薪と種火をくべ続けてくれました。そして私の胸の内の小さな種火が一気に燃え上がったのは、冒頭の卒業生代表の言葉を聞いた瞬間です。また、卒業生代表の方はこうも言われました。「今、あなたが考えたこと、それがあなたのJCです」
私はJC、そして郷土について考えたとき、能代の地名に思いを馳せました。「能代」、この名は元々野代と書かれていましたが、江戸時代に震災被害に遭い、「野と代わる」と読める事を忌避し、「よく代わる」と改めたことに由来します。すなわち「能代」の名称には郷土をより良く変えていこうとする先人達の想いが込められています。そしてそれは、「新日本の再建は我々青年の仕事である」として始まった青年会議所運動と同じ、深い郷土愛に根ざした決意であると、私には感じられます。
これまでJCの先輩達から受け継いだ精神と、そして先人達から受け継いだ「郷土をより能く代えていく」という気概を胸に、これが私のJCだと堂々と想いを掲げられるよう、自らを奮い立たせて邁進して参ります。
昨日より今日を、今日より明日を、より能く代えていく能動者となることを目指して。

今という時代

 日本は1997年の消費税増税、その翌年からデフレに突入し、経済成長は横ばいやマイナスを繰り返し、世界経済が成長する中で相対的に零落し、現在に至るまでデフレから完全に脱却することができていません。我々が暮らす郷土においても、県内総生産は辛うじて横ばいを続けてきましたが、2014年に消費税が8%へと増税されたことにより、県内の実質経済成長率はマイナスを推移したままです。企業の倒産、実質賃金の低下、それらに伴う消費と投資の減少等を通じ、数字が表す以上に、我々は青年経済人として郷土の苦しい状況を肌で感じています。災害対応等による一時的な予算措置による需要はあるものの、長期的な展望がきかない状態が続いています。「貧すれば鈍する」、この負の連鎖が過度な利益重視、公共心の欠如による利己主義、すなわち日本人が大切にしてきた和を重んじる価値観をも毀損し続けています。
 しかしながら、「少子化」という希望の光が差し込んでいることも事実です。従来、少子化とは労働人口の減少、それに伴う税・社会保障負担が高まり、社会の活力が失われる悪しき現象として捉えられてきました。しかし、実際に働く若者が不足するが故に、現在の若者達の就職率は極めて高い数値を更新し続けています。「就職氷河期」を経験した私にとっては隔世の感がありますが、これはデフレ状況下における労働者使い捨ての時代から、働く人間が大切にされる時代へと、パラダイムシフトが起きつつあることを示しています。 
今という時代は、このように逆境と順境が交錯した、奇妙な状況の中にあるのです。

我々が目指すべき姿

 このような状況において、我々は何を目指すべきなのでしょうか。
 まず、我々自身が地域を牽引できる人材となるべく、自らを磨き上げなくてはなりません。2017年に日本JC会頭を務められた青木照護先輩は、「Jayceeよ、保守経済人であれ」と言われました。私はこの言葉を次のように理解しています。「保守」とは、先人達から受け継いできた伝統、風習や考え方などを重んじること。すなわち、時代に即して変化を加えつつも、根幹となるものは変えない。我々の郷土には、世界遺産である白神山地、米代川から流れ込む日本海をはじめとする豊かな自然、七夕祭りなどに代表される伝統文化、能代工業に象徴されるバスケットボールをはじめとしたスポーツ文化など、地域の先人達から受け継いできたかけがえのない遺産があります。これらを時代に即していないと切り捨てるのではなく、何故それらが時代を超えて現在まで受け継がれて来たのか、その本質を探求していかなくてはなりません。そしてその根源的なものを次世代へと継承していく。それらを実行していく姿勢こそが保守であります。
 また、「経済人」とは経済合理性のみに基づいて行動する人間ではなく、「経世済民」を実行する人間のことです。經世濟民(世を治め民を救う)、すなわち世情を安定させ、人々を豊かにすること。そのためには経済の仕組みを正しく理解する、「英知」ある人間が必要です。例えば財政破綻問題についても、いわゆる「国の借金」について考えたとき、誰から誰がお金を借りているのかを考える必要があります。国民が金融機関を通じて間接的に政府にお金を貸しているのであれば国民は政府に「債権」を有している状況にあります。また国債の45%を日本銀行が買い取っている現状では、日本銀行が保有する国債は連結決算で相殺されるため、半分近くの国債について政府は返済や利払いの必要はありません。現在の日本、特に地方であるこの能代山本は、デフレによって苦しめられています。デフレは総需要の不足によって生じるため、脱却には安定的な需要の創出、つまり継続的に仕事がある状況が求められます。これらの点を知るだけでも、我々は主権者として、政府に財政出動を求める必要があることを理解できるはずです。
 我々は、大切な郷土を守るために、明るい豊かな能代山本を目指して「保守」と「英知」を両輪とした運動を展開しなくてはなりません。

ポジティブな人材と組織

 我々は現状を踏まえて、地域をより能く代えていかなくてはなりません。また、それは地域社会が青年に求める時代の要請でもあります。その要請に応える人材と組織とは、ポジティブな思考によって物事を推し進める人と組織です。青年会議所には、様々な研修や体験による成長の機会があります。これらを単にこなすのではなく、やらされるのでもなく、青年会議所を、「自己の成長と明るい豊かな郷土実現のため」という目的を達成する手段として活用する人材を育成していく必要があります。「悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意思によるものである」という言葉がありますが、地域や己の現状を嘆くのではなく、異なる視点から可能性を見つけ、意思の力により、「より能く」を求めて積極的に活動・運動を展開する。我々が青年経済人・保守経済人として成長し、地域を牽引していく。ポジティブな人材が互いに切磋琢磨し、相乗効果を発揮して活力ある組織が形作られ、地域全体に効果が波及していく。そのようにしてこそ、我々は青年として課せられた担いを果たし、また地域の若者へ「共にこの街をより能く代えていこう」と声を上げられるのではないでしょうか。

持続的な会員拡大

 一つの問題を解決した先に、新しい課題が見つかる。明るい豊かな社会を実現する取り組みには、容易に終着点は見えません。だからこそ、我々はたゆむことなくまちづくり・ひとづくり運動を展開し続けなくてはなりません。まちづくり・ひとづくり運動が一朝一夕では終わらないものである以上、我々の取り組みも持続的なものでなくてはなりません。会員拡大は、単に組織の存続を求めるものではなく、明るい豊かな社会を実現するための一つの手段です。我々会員が正しい経済的知識、英知を身につけ、郷土発展のために勇気と情熱を持って挑戦を続ける。そして地域にとって魅力ある人間となり、その姿を積極的に発信することで会員拡大を進めていかなくてはなりません。全国的にも会員減少の傾向が続いており、拡大の必要性が叫ばれる今だからこそ、人生最後の学校と言われるJCの門を広く開け、「今日より明日はきっと良くなる、なぜならば我々がそうするからだ。共に郷土をより能く代えていこう」と地域に呼びかける気概を持って拡大運動に挑戦して参ります。

次世代育成と責任世代の担い

 我々は社会の中核を担う責任世代として、明るい豊かな社会を実現する責務があります。しかし、それらは先述したとおり、一朝一夕に実現できるものではありません。従って会員拡大を進めるのと同様に、より大きな視点で考えれば、先人達から受け継いだこの郷土を、より能く変革し、次世代へと引き継いでいかなくてはなりません。そのためにも、郷土の未来を託す子供たちに、愛郷心を育む事業が必要となります。愛郷心とは、幼いときには自覚し難く、しかし成長するにつれ明確になり、故郷から離れた場所で覚醒するものであると、私は考えます。現在この能代山本には大学や専門学校などの高等教育機関が少なく、また就職の問題から故郷を離れる若者は少なくありません。地元で生活していても、旅行などで他の地域を訪れる機会はあり、全く他の地域を知らないという方は少ないと思います。愛郷心とは、このように自分が生まれ育ったものとは別の環境にある時こそ、ふとした瞬間に胸の内側から溢れ出てくるものではないでしょうか。そしてその愛郷心を自覚した人間こそが、いつの日にか郷土に戻り、地域をより能く代えていく人材となるのだと私は考えます。そのために我々は、子供たちの胸の内側に、愛郷心の種を植え付ける取り組みを実施します。そしてその事業は、地域への愛郷心を育むが故に、地域固有の資源に根ざしたものでなくてはなりません。子供たちの人生を支える幼い時のかけがえのない思い出、そこから始まる愛郷心の育成へと繋がる事業を展開します。

明るい豊かな郷土と青年フォーラム主管

 2019年度は、能代青年会議所主管による第67回東北青年フォーラムが開催されます。能代の地にて開催されるのは1984年、第32回大会以来であり、東北地区協議会最大の運動発信の場でもあります。
 1984年度の大会では、東北各地の仲間達の協力を得て、東北中の祭りが一堂に会し、能代山本の住民に大きな感動を与えました。このイベントはおなごりフェスティバルと名を変え、現在に至るまで地域住民に親しまれています。
青年フォーラムは大変大きな事業です。しかし、私はこの機会をLOMにとっての好機であると考えています。これまで述べてきたように、我々は明るい豊かな社会を実現するべく活動・運動を行っています。青年フォーラムを、その一つの手法として積極的に活用して地域をより能く変革していくべきなのです。
 まず、対外的に能代山本の伝統文化や魅力を発信する場とし、また能代JCと来訪JCとの絆、地域住民とJCとの絆が育まれる機会とします。そして開催地LOMと地域と住民に恩恵をもたらし、主催する東北地区協議会に共感できる情報発信の機会を提供し、参加してくれる来訪JCのメンバーに感動を与られる大会を、東北地区協議会と共に構築します。そこから大会の成功を契機として、郷土発展の礎とし、そのモデルを発信することで東北中に活力をもたらす。能代山本の地から、東北の隅々に至るまで、地域を一歩でも前に進める力を発信する大会を目指し、青年フォーラム主管という大事に臨みます。

おわりに

 2005年入会以来、挫折を含めた多くの経験をさせて頂きました。そんな私が、青年フォーラム主管という年に理事長の大任をお預かりし、責任の重さを痛感しています。しかしながら、メンバーからの期待に応え、メンバーとともに地域からの期待に応え、尽くしうる全力を尽くして地域発展に臨む覚悟です。
 間違いを犯すかもしれない。回り道をしてしまうかもしれない。しかし、地域発展の責任を担うのは、我々青年であるという覚悟だけは失わず持ち続けなくてはならない。東北青年フォーラムを契機に、この地域を明るく豊かにするべく奮励努力することをお誓い申し上げ、所信といたします。

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